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オカヤドカリ類の生態
更新: 2007年07月06日 14:15

夜の浜はナキオカヤドカリがたくさん

 

 

 写真が小さくてすみません。
いずれ、クリックすると大きな絵が出るように
作り替えたいと思います。

 夏の夜、海岸にはたくさんのオカヤドカリ類がやってきます。

 日差しを避け、海岸に打ち上がった餌を食べたり、
お気に入りの貝殻を見つけて交換したり。

 小さな点は、全てナキオカヤドカリです。
この日は、雌が海に幼生を放す行動(放幼生)がたくさん観察されました。

 

貝殻を見つけたと思ったのに...

 

 

 真昼の砂浜に、壊れたカタツムリの貝殻が落ちています。
よく見ると、周囲にはたくさんの足跡が...。

 四方八方からオカヤドカリ類がやって来て、落ちている 貝殻の 品定め。
貝が壊れているので、あきらめて歩いていったあとなのです。

 ヤドカリ類は、数メートル以上離れたところから直線的に
やって来ますから、眼で見て貝殻をさがしているのでしょう。

 

引っ越しは、強い順に順番待ち

 

 

 お気に入りの貝殻が見つかっても、先客がいる事もしばしば。
そんな時は、貝殻にハサミを突っ込んだり、自分の貝殻をぶつけたり、
自分の殻の内側を引っ掻いて振動を相手に伝えたりして、強引に
追い出しにかかります。

左の写真では、中央で仰向けにされた貝にいちばん大きな個体が
のし掛かり、中にいる小さなヤドカリを追い出そうとしています。

 追い出し作戦はにぎやかなので、まわりのヤドカリ達も集合。
大きなヤドカリが引っ越したら空き家(貝殻)をもらおうと、
中位のヤドカリが大きなヤドカリの貝殻にしがみつきます。
中位のヤドカリの貝殻にはさらに小さなヤドカリがしがみつき、
写真中央から右上に続くような順番待ちの列ができます。
時には列に割り込む奴もいます。

 

ガジュマルの葉?を食べてます

 

 

 貝殻の取り合いをしていない時は、争いは殆ど見られません。

 浜に打ち上がった海藻や木の葉、木の実や生き物の死骸など、
餌に群がって食べるときも独り占めはしません。もちろん、
譲り合うことはありませんが...。

 

頭隠して...

 

 

 ヤドカリ類を殻から引っ張り出そうとしても、奥の方で引っ掛かって
出てこないのは、腹部の先に仕掛けがあるからです。
壊れた貝殻に入ったオカヤドカリ類を見てみましょう。

 右の写真のうす黒い灰色に見えているのが柔らかい腹部で、
その先端に四角い節が二つ(第6腹節と尾節)付いています。
エビでは、腹部の先の尾節と第6腹節から延びる尾枝とで、
うちわ状の「エビのしっぽ」になってます。
  でも、ヤドカリ類は、白く見える尾枝が前向きに延びてその先端は
ヤスリの様にざらざらしています。実は、このヤスリの部分(写真では
茶色く見える所)を貝殻に押し付けて突っ張っているので、
引っ張り出そうとすればするほど尾枝が貝殻に密着し、動かなくなります。
無理に引っ張ると腹部がちぎれてしまいますから、いじめないでくださいね。

 

潮が満ちる前に岩の上に撤収

 

 

 潮の引いた砂浜で餌を探していたオカヤドカリ類も、潮が満ちる前に
隠れ家に戻ります。砂浜に多いナキオカヤドカリは砂浜の植生の下に隠れ、
岩場に多いムラサキオカヤドカリは岩のすき間や洞窟に潜り込みます。

 岩を登る様子をよく見ていると、どこでも適当に登るのではなく、
どうやらヤドカリ道がありそうです。
  まず、砂浜に散らばっていたヤドカリ達は岩の方に集まって来ます。
岩の所まで来たらそれぞれ岩伝いに砂浜を歩いて行き、だんだんと
奥まったところや岩の下にできたすき間などに密集してきます。
そうなると、岩の割れ目や窪みなどを伝って、少しずつ上に登りはじめます。
適当なところまで登り、岩のすき間や石の下に潜り込んで貝殻を固定したら、
貝殻の中に引っ込んで休んでいる様です。

 

     
     

ヤドカリの宿貝を割って釣り餌に

 

 

 

 昔から沖縄では、ヤドカリ類を釣りエサに使ってきました。
オカヤドカリ類を採集して売る職業もあり、今でもそれは変わりません。

 写真の石は、ヤドカリ類が入ったチョウセンサザエの貝殻を割るのに
使った石の様です。
  よく見ると、壊れた貝殻に混じってオカヤドカリ類の脚も見えます。

 オカヤドカリ類は国指定の天然記念物に指定されているため、
許可無く採集する事はもちろん現状変更(触ったり移動させたりすること)
そのものが法的に禁止されています

 

砂にもぐってるわけではありません

 

 

 沖縄が本土復帰する前の昭和45年11月12日、小笠原の個体群を元に、
オカヤドカリ類は国指定の天然記念物となりました。
  復帰後少しした昭和50年、オカヤドカリ類の採集・販売が問題化し、
文化庁の指導で沖縄の採集業者は組合を作りました。
 
現在国内で販売されているオカヤドカリ類は、文化庁長官の許可を得た
組合の方々が採集しています。

 天然記念物保護の観点から、採集には期間や方法を文化庁と調整して、
毎年採取許可申請手続きを行う必要があります。加えて、この組合への
新規加入は認められていません。

 悲しい目をして干からびている左の写真のムラサキオカヤドカリは、
腹部を千切られ捨てられていました。

 

     

側溝に落ちて出られない

 

 

 沖縄のオカヤドカリ類の生存を脅かしているのは、密漁だけではありません。
人口構造物を乗り越えられなくて、死んでしまうオカヤドカリ類 も
たくさんいます。

 陸地に棲むオカヤドカリ類も、卵から生まれたての幼生は、海で過ごします。
オカヤドカリ類は、海と陸とを行き来する生き物なのです。
 
ヤドカリ類は、宿貝の中で卵を産み(産卵)、雌の腹部にある腹枝の毛に
卵を付着させます(抱卵)。卵はそこで発生を続け、孵化が近づいた卵は
卵の殻をすかして内部に黒い眼が二つみえるようになります。雌は、
卵の孵化に合わせて、陸から海に移動します。

 左の写真は、新しくできた道路の側溝に落ちたムラサキオカヤドカリです。
側溝の左側のコンクリート壁を降りて来て、右手にある海に向かう途中で
落ちてしまいました。
新しいコンクリートの表面は滑らかで、登る事が
できません。

道路を横断中、ひき逃げ

 

 

 たとえうまく側溝をよじ登っても、車が往来するアスファルトが
待ちかまえています。

 道路は車が通るだけでなく、夏場はものすごく高温となり、
小さな個体には危険な場所です。

 

絶壁を降りるのは勇気がいります

 

 

 なんとか道路を横切ると、続いてコンクリートの絶壁が....。

 垂直で滑らかに仕上げられたコンクリート壁は、岩登りが得意な
オカヤドカリ類にとっても恐怖なのでしょう。崖の手前で立ち止まり、
みんな右往左往しています。しかも、落ちたら水。

  オカヤドカリ類は空気呼吸を行うため、水中に長時間いると
死んでしまいます。

 

雌だ〜!

 

 

 

 夏の満月の夕方、浜辺の草むらにはたくさんのオカヤドカリ類が
集まってきます。暗くなったら波打ち際に移動して、海に幼生を放す
(放幼生)ためです。雌が海岸で海水に浸かって卵を揺らすと、
卵の殻がはじけてゾエア幼生が海に放たれます。
 ここで卵を産むのではありません。

 放幼生に来た雌と交接する(精子を渡す)ため、雄も浜辺をウロウロ。
浜に降りてきた雌を見つけると追いかけて殻にしがみつき、交接を迫ります。
写真は、右上のムラサキオカヤドカリの雄が雌を抱えていて、他の2匹は
それを横取りに来た雄です。

 

 

交接中...

 

 

 暗い中、雄がどうやって雌を区別しているのかわかりません。
においか?歩く時の音か? 間違えて雄に抱きつくと、抱きつかれた雄は
貝殻を振り回して合図?を送り、抱きついた方はあっさりあきらめてしまいます。

 うまく雌を捕まえた雄は、雌の貝殻を仰向けにして抱きかかえ、
触角や脚でノックしたりして求愛。でも、放幼生に向かう雌は急いでいるのか、
なかなか雄の求愛に応じません。雄を振り切って逃げる雌がたくさんいます。

 交接では、雄の腹部の一番前にある第1腹枝が変化した交接器を使って、
精子を雌の腹部にくっつけます。雌に気にいられれば、雄は危険を承知で
貝殻から身を乗り出し、雌に精子を渡します。
 写真は、ナキオカヤドカリです。

 

放幼生する前に交接

 

 

 念のため、本当に交接したのかどうか、雌を捕まえて確認してみました。
もちろん、今回は天然記念物調査のために特別な採捕許可を得てあります。

 雌の腹部には、雄の白い精子の塊がしっかり付いていました。
精子の奥に見える茶色いツブツブは、孵化直前の卵です。
よく見ると、卵の中に黒い点々(ゾエアの眼)が見えます。

 雌が海水に浸かって放幼生しても、精子は流れてしまわないのでしょうか?
放幼生から帰ってきた雌を浜辺で捕まえて確認したところ、複数の雌で
雄の精子が付いているのを確認できました。

やっと放幼生できる

 

 

 幾多の苦難を乗り越えて、やっと波打ち際までやって来た
ムラサキオカヤドカリの雌。
  普段は内陸部に生息するオカヤドカリも、放幼生の時にはや
はり海までやってきます。

 波打ち際で放幼生行動を観察していると、種類によって
放出の仕方が違うのが面白い。

 

ゾエアを食べに来て捕まった魚

 

 

 たくさんのオカヤドカリ類が放幼生した波打ち際で、海水を
すくってみました。クーラーボックスで適当にすくったのですが、
海に放たれたゾエアと一緒に、ゾエアを食べに来た小魚(黒いやつ)まで
捕れました。イワシ系? きっと群れでゾエアを食べに来ている事でしょう。

 写真に写っている横スジは、クーラーボックスの底の模様です。
全体的に散らばっている砂粒の様な茶色い点々が、オカヤドカリ類の
ゾエア幼生です。結構高密度。

 

巨大な花

 

 

 飼育実験環境では、約1ヶ月の浮遊期間の後、ゾエアからグラウコトエ
(メガロパ)幼生となって海岸近くに戻ってきます。
ここで微小巻き貝を拾って中に入り、砂浜に上陸する様です。

 上陸直後の全長2〜3ミリ程度の個体は、赤っぽいガラス細工の様な繊細さ。
海岸の暑さを逃れて、石や打ち上げられた海藻の下などに隠れています。
数回脱皮して全長5ミリ程度に大きくなると、写真の様な色になります。
この段階では、どの種類かわかりません。暑い砂浜を越えて、彼らはさらに
陸側に移動します。

 ユウナの花も、彼らにとっては巨大な壁に見えることでしょう。

 

オカヤドカリ類は永遠に?
 

 小型のナキオカヤドカリは海岸近くに植生や石垣などの隠れ家があれば
何とか生活できますが、大型になるムラサキオカヤドカリやオカヤドカリは、
隠れ家となる広い岩場やそれに続く広い内陸部(餌場)が無いと生きられません。

 砂浜を横切ってやっと海岸植生にたどり着いた小さな稚ヤドカリは、
卵を抱いた雌が通ってきた道を逆にたどり、干からびる前に、
滑るコンクリートの壁を登り、焼けたアスファルトの高熱に耐え、
海岸道路に並ぶ車の列をかわし、側溝を乗り越え、ブロック壁をよじ登って
行かねばなりません。おそらく、殆どの個体は、今見られる様な大型個体が
棲む場所にたどり着く事はできないでしょう。

 たしかに、今はまだたくさんのオカヤドカリ類が見られます。

 実は、オカヤドカリ類は25年も生きたと言う飼育記録があります。
つまり、彼らの生息環境がこれ以上悪化しないかぎり、あと20年位は
沖縄島でもオカヤドカリ類を見つける事ができるはずです。驚くことに、
海から遠く離れ、道路で何重にも取り巻かれた首里の雑木林でも、
大型のオカヤドカリを見る事ができます。

 でも、沖縄の島の周囲が護岸で塗り固められ、海岸道路が整備された今、
オカヤドカリ類を見かける頻度はこれからどんどん減っていき、30年後には
絶滅危惧種になっているかもしれません。

 そんな大げさな...と言うあなた。沖縄県の護岸の整備状況が気になれば、
沖縄県 土木建築部 港湾課琉球諸島沿岸海岸保全基本計画をごらんください。
高潮から沖縄の財産を守るため、堅牢な護岸の整備が計画されています。
今後10年ほどの海岸保全基本計画だけでもたいした距離です。
もちろんこれ以前にも護岸は設置されています。

 海を拒絶した沖縄。これからどうなるのでしょう。

     
     
     

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